――皆さんごきげんよう、ライダーオタクのレインです。いやー、やっぱりコラボ回でもライダーは面白いですね。サーベルの時もなかなか意外性のある展開で大変面白かったのですが、個人的には今回の方が好みです。あれを見てからちょっと欲が抑えきれなくなって、ここにノベライズを投稿してみました(長いwww)。『あれ、レインさん前文句言ってなかった?』とお思いの方もおられるでしょうが、私は別に番組全体に文句を言っていた訳じゃなく、『乗っ取り』ってものがあまり好きじゃなかったというだけなのです。主人公であろうとぽっと出のサブキャラであろうと、歴史あるヒーローに連なる名前を名乗るなら、闇ちするにしても光堕ちするにしても最適解を取るにしても誤った行動を取るにしても自分の意思でして欲しいっていう考えが私ありまして(だから『電送』は放送中そんなに好きじゃなかったんです。バレットフォームで手の平がえししましたけどねwww)、まあそれも別の名前(疑似ライダーみたいな)名乗ってもらえれば許せる程度のこだわりなんですよ。ただここ最近の展開だとちょっとケチがつく気配がしてツイでもなんだかんだ言ってたわけですが、幸いそれは杞憂だったという訳です(以上言い訳)。小説についてですが、ただ文字起こしするだけなのはつまらないので、本編からちょっと視点を変えてみました。故にオリジナル描写もやや多いです。どうぞ、本編の映像を思い浮かべながらお楽しみください――

 

「確かに私は人間じゃありません」

 

 私たちの前で、彼女はうつむきながら静かに告白した。

 

「先輩たちの事は好きですから、見せます。これが、私の本当の姿」

 

 彼女は腰に巻いた二つのポシェットからそれぞれ何かを取り出した。スタンプラリーの台に括りつけられているような大型の判子が両手に一つずつ。摘まむような手つきの隙間からそれぞれホオジロザメとカレハカマキリを模したような文様が見える。

 

『Arrogant Great White』

『Arcane Paradoxa』

 

 いやに高音の女性の声がスタンプから流れ出る。幽霊のように手首に力を入れないままスタンプを顔の横に掲げ、彼女は手首をひねってグリップ部を持ち上げ、そのまま両頬に叩きつけた。スタンプに描かれた模様が血色のいい頬に黒く転写され、それが青と緑の燐光を放ち始める。

『Ambivalize. Shark 'n' Paradoxa. Stand by』

 彼女の両手に緑色の光が集まり、手首から先が変形して枯葉のような形のカマを形成した。さらに背中の組織が盛り上がり、肉の塊が大型魚のような形になり、表皮直下を蠢いて頭に噛みつく。そしてそれが体にぴったりと張りつき、サメを模したフードのような生体組織を作り上げる。変形は末端にも回り、胴体には体のラインを強調するようにサメ肌の濡れた灰色の皮膚が張りつき、末端には枯れ葉色の外骨格が堅牢な装甲を形成する。その顔は噛み合ったサメの歯のような物で完全に隠されている。その姿はまさしく怪人だった。 

 ――我々人類の住まう『オーバーワールド』と対をなす裏の世界、『アンダーワールド』。アームドメモリの起源は、かの世界の大詩人『ゼロニム』が残した巨大な歴史書『戦記』だった。人類史上のすべての戦いを記録した書物の力を用いて、世界に混乱を齎そうとする者たち、そして『アンダーワールド』から進攻する魔物。ライダーたちは激化する戦いに身を投じていく……。 『演算せよ‼ 夢を‼未来を‼』―― 

 

 ――主題歌『武装演算』――

 第17話 ずっと彼女が怪人でした/少女探偵H

 

・登場人物

・剣崎一海 Hitomi Kenzaki

……雨川学園高校二年生。マジカライダークレイモアに変身する。

・鎌田理沙 Risa Kamata

……雨川学園高校一年生。氷奈と一海の元に弟子入りする。

・立花氷奈 Hina Tachibana

……雨川学園高校二年生。マジカライダースラッシュに変身する。

・観嶋真砂 Masago Mishima

……風戸第一高校二年生。マジカライダービーハイヴに変身する。

・花屋桜 Sakura Hanaya

……風戸第一高校二年生。マジカライダースナイプに変身する。

・皆藤潤 Jun Kaito

……風戸第一高校二年生。 マジカライダーグレイブに変身する。

・三輪遥奈 Harukana Miwa

……風戸第一高校一年生。マジカライダーラルクに変身する。 

・曲木真心 Magokoro Magaki

……風戸第一高校二年生。マジカライダーランスに変身する。

・創河愛 Ai Kizukawa

……雨川学園高校二年生。マジカライダーフィストに変身する。

 

・セールスマン

……アームドメモリを高校生たちに売っている中年の男性。

・月夜見日和 Hiyori Tsukuyomi

……風戸第一高校二年。生徒会長。 

・迫井竜之介 Ryuunosuke Sakoi

……警部。警視庁警備部特事課より風戸特異事件捜査課へと出向。 

・狩咲雄介 Yuusuke Karisaki

……大学生。風戸警察署特異事件捜査課アドバイザー。

 

 皆藤潤は魔法少女だった。厳密に言えば『マジカライダー』とかいう名前がついている存在らしいのだが、変身後のフリフリしたコスチュームを見れば(手足の末端や頭、胸部をモチーフ丸出しのゴテゴテした装甲が覆う事を鑑みても)誰しもが『魔法少女だ』と認識するに決まってる(顔が隠れるのは珍しいと思うけど)から、少なくとも潤の周りではそれで通じていた。

 『魔法少女』と聞いて例の都市伝説を思い起こした人はいっぱいいるだろう。都市伝説って奴には珍しくあれは掛け値なしの真実だった。事実この東京府風戸市中の高校生に『アームドメモリ』なるUSBメモリ状の胡散臭い代物を売りさばいている奴がいる。これはそれぞれ『パックルメモリ』とか『ウィンドキャノンメモリ』とかいう名前がついていて、各々歴史上存在した武器や兵器のデータが一つずつ内包されている。これを使う事で、人は魔法少女になれるという訳なのだ(男は魔法使いになる)。

 薬物の売人が最初は無料サービスを行っているのと同じで、潤が持っている初期型のメモリはある場所で無料配布されていた物だ。ちょうどこのころ、各種SNSに『夢のアイテム配ります』という怪し過ぎる告知が跳梁跋扈していたために、これを受け取った者はこの風戸市中にわんさかいる。

薬物の売人がその後高額販売に切り替えるのと同じで、メモリの売人も有料の後期型を売り出し始めた。さすがに金を取るだけあって無料配布分のメモリとは明らかにスペックに開きがある。これだけならいいのだが、潤のように好奇心半分で手に入れた人間とは違って、わざわざ高校生にとっては高額な金を払って後期型のメモリを手に入れた者は概ね凶暴で且つ何らかの危機的状況にある傾向が強い。

 故に、精神面でもスペック面でも、かちあえば潤側の大敗は免れない。じゃあかちあうのかという話だが、どうもメモリの売人は魔法少女同士の衝突を歓迎している節があり、魔法少女が魔法少女を撃破するとメモリ強化の恩恵が受けられる。戦闘が発生する可能性は十分にあるだろう。

という事で、潤は徒党を組む事にした。幸い初期型メモリを配布されていた友人がちょうど二人いた。そんな曲木真心と三輪遥奈と皆藤潤のスリーマンセルの前に、またも襲撃者が現れた。

 

『『『Magicalculation!!!!!!』』』 『Glaive!!』 『Bow!!』 『Lance!!』

 

 港湾エリアの中央部にある公園の中で、アームドメモリ起動時のシャウトが三つ同時に流れた。本来この公園は昼夜ともに人気が絶えないスポットであるが、奇妙な事に今日このタイミングにあっては人っ子一人いなかった。相手が何らかの人払いを仕込んだのは確実だった。潤はグレイブメモリを右手親・中の二本指で挟み、USBメモリ状の物体の挿入部を下にして眼前に掲げた。そしてその挿入部の延長線上に左手首、ひいてはそこにはめられたスマートウォッチを置いた。

「着装!」

 再びメモリ上部のスイッチを人差し指でノックすると、『Glaive!  Heavy and gorgeous pole weapon!』とのコールとともにメモリに刻まれたグレイブのクレストが発光する。そして潤はそれをそのままスマートウォッチのガラスに叩きつけた。同時に遥奈がボウメモリを背負った弓筒に刺し、ランスメモリが真心のバイクに飛ぶ。

 

『Glaive!! Glaive!! Rider G-L-A-I-V-E!!!!』

『LLLLL! Rider L-A-R-C!!』

『L・A・N・C・E! Rider LANCE!!』

 

 シャウトと共に、本来簡単には変形しないガラスが、弓筒のポリマーが、XR230の金属部がメモリを飲み込んでいく。完全にメモリが飲み込まれると、各アイテムから放たれた光が三人の背後で『A』型の首輪飾りをつけた猛犬の姿を取る。そして犬型のホログラフは三人の肉体に一匹ずつ突撃し、彼女たちを魔法少女――マジカライダーに変えた。

 そして残光がオーブ状になってふわふわと独立飛行し、それぞれの主人の手の中に収まる。その中で光は各メモリに対応した武器を生成し、メモリの形に還って各人の手の中に戻った。これらのシーケンスはそんなに長い物ではなかったが、その間相手は一切アクションを起こす事なく潤たちを待っていた。初戦の相手であった二足歩行する兵隊蟻の化け物みたいな奴の群れと違って紳士的な行動だが、とても仲良くバイクショップに向かっている三人組に悪質なエンカウントをかましてきた相手とは思えない物ではあった。潤たちにとってはそれがむしろ無防備且つだだっ開きの城門(BGⅯに琴の演奏つき)を目の前にしたかのような気味の悪さを覚える物だった。

 部隊員の内訳が長柄武器、馬上槍、弓である関係上、どうしても潤が切り込み隊長になる。遥奈が強化されたジャンプ力で後ろにある列柱のオブジェに跳び上がり、真心が広場の階段の下に停めたバイクに向かって走り出す中、潤はグレイブを水平に構えた。そして潤は刀身と柄の接続部にある犬小屋状のパーツの扉を開け、露出したスロットにメモリを挿入する。

 

『Glaive! Less-Calculation!!』

 

 突撃。相手の目の前に来たところで潤は地面を蹴り、ジャンプの頂点から剣を相手に振り下ろす。攻撃が今にもヒットしようとした段になって、相手はその右腕を横薙ぎにし、蛇の鱗を模した刀身を強かに打ちつけた。それによって空中姿勢を崩された潤はそのまま回転しながら空中を舞い、敵の左斜め後ろに着地する。着地は安定した物ではなく、接地の途端にバランスを崩した潤は地面を数メートルほど転がる羽目になった。公園の石畳敷は人体と比べればはるかに硬く、マジカライダーのスーツの上からでもダメージは小さくない。それでも回転途中で何とか潤は地面に手を突き、回転の勢いのまま立ち上がる事が出来た。

  顔を上げると、仁王立ちする相手の向こう、列柱の上に弓を構えた遥奈の姿が見える。彼女がメモリを起動すると、その力で生成された矢状のエネルギー体が何本も怪人の下へ飛ぶ。怪人はそれらにしかと視線を注ぎながら、右体側の腰へと手を伸ばした。

 

(続きは『蒼鴉城』第49号でお楽しみください)